フィージビリティスタディについて
総監技術士と受験者の皆さんはご存知かと思いますが、フィージビリティスタディ(FS)というキーワードがあります。総監の項目では経済性管理の中で出てくる「実現可能性調査」、もっと簡潔に言えば「予備調査」です。
新たなプロジェクトを企画すると、勢いよく、また、ビジネスチャンスを逃さずに果敢に挑戦したいところですが、実施前に成功の可能性を判断する重要な行為です。
ところが意外にも、このことを知らず経営層になってしまっている方が多いことに私は気付きました。経営判断は、「直観が大事」とばかり、根拠のない投資を始めたり、思い付きで趣味的なことを始めたり・・・。
事業が具体化した後の主な調査項目は、以下に例を挙げました。
①市場のニーズと規模
②競合他社や業界の動向(知的所有権を含む)
③政府や国民などの受容度(反発リスク)
④技術面での課題、解決の見込み
⑤収益性(採算性)とキャッシュフロー
⑥組織体制と人員計画
⑦運営におけるリスク分析
ここまでやらなくとも良いのですが、『ダメな企画はふるい落とす』ということが目的です。特に、民間会社では名だたるアイデアマンがいて、次々と新作を思いつくと、周りの人は「そうだね!やってみようか」という感じになるものです。その方が、組織が成長しているような気分になり、全体に高揚し、話題ができます。
ところが、やめる基準が曖昧なことが多いのです。うまくいかなくなった企画をズルズルと引き延ばし、放置状態になっても誰もそのことには触れないなんてことありませんか?
ですから、FSを行い、悪い状況が想定されても実施した場合は、だれが責任を取り、どんな時に企画をストップするのか明確にしておくことが重要です。特に経営陣の方、よろしくおねがいします。
今日はここまでです。
想定外の事象が顕在化した場合の対応
プロジェクト開始時には想定していなかった事象が、プロジェクト開始後に顕在化するということは、少ないかもしれませんが、起こりうることです。
技術士の試験では、「想定しなかった事象とその対応を記載せよ」という出題が過去にありました。
この際に、具体的な事象を思いつかず、回答用紙に一般的な事象を書いてしまいがちです。ここは、なるべく具体的な話を書いて、具体的な対応を書くことが求められていますので、自分の経験や想像力でリスクを挙げていく訓練も必要です。
リスクの一例としては、東日本大震災のような「大災害によるプロジェクトの物理的中断」というものがあります。実際に今年も熊本で震災が頻発していますので、災害による物資の供給難という問題が起こった場合どのように対応するか?これは、結構重要な問題であり、様々なプロジェクトで具体的な対応案が必要になると思います。
また、経済的なリスクとしては、クライアント資金難の問題や経済危機がありますので、資金トラブルが起きた際のBCP(事業継続計画)を考えておくことも必要でしょう。
社会環境では、現在様々なプロジェクトが住民公開型で進められる傾向にあり、特に公共事業はそうですが、住民の大反対が生じた場合、にっちもさっちもいかなくなることがあります。事業開始時には反対されていなかったことも、世の時流で突然世間を敵にすることもあります。
私の知るところでは、かつてクリーンなイメージだった風力発電施設が、ある時を境に急に悪いイメージを持たれるようになり(騒音やバードストライクが原因)、プロジェクトが凍結してた事例もあります。なかなか難しいとは思いますが、公的なものはできるだけ早い時期から事業内容を公開し、住民参加が可能なものであれば、計画から参加いただくという共同責任型をとれば、事業中断のリスクが減るものと想像します。
また、人的なトラブルとしては、プロジェクトメンバーが事故などで離脱したり、雇用が不足、あるいは技術者の育成がうまくいかないなどのケースを想定し、緊急的に外部委託や全国組織対応するなどの措置を考えておくこともあります。
最後に、情報関連では、盗聴やサイバー攻撃で機密情報が外部に漏れ、責任問題となったり、知的所有権が新たに発生して事業が方針転換せざるを得ないなど、近年はその頻度も高くなってきました。
これらのリスクを具体的に考えておくことが、試験はもちろん、技術者がプロジェクトを俯瞰しながら成功に導く上で大変重要なことだと考えています。
少子高齢化における人的資源管理
技術士の試験日まで2週間となり、世界の先進国で深刻な問題である少子高齢化について考えてみます。
総合技術監理部門のみならず各分野共通のテーマでありますが、所属する組織、業界についてどうやって改善していくか、一度自分の意見を整理すべきと思います。
まず第一に、少子化により若手・新入社員の確保が難しくなってきます。優秀な人材は引く手も数多で、かつては「代わりはいくらでもいる」とか、「会社の歯車」いった話もよく聞きましたが、現在は「人材は大事に育てるもの」という認識です。地方では人口流出が加速していますので、何らかのインセンティブを設けないと歯止めがかからないでしょう。具体的な妙案がありますでしょうか?
人材育成制度は、昔の職人さんは「背中を見て覚えるものだ」といって、OJTどころか現場を連れまわし、とにかく下積み経験を重視しましたが、今はその流れは変わっています。建設業界においても、管理技術者に若手や女性を抜擢する方が、有利な発注条件さえ現れています。
つまり、世代の若返りを意識し、古い教育制度は改善する必要があろうかと思います。これは、会社の社風や文化と大きく関わってくるので、経営層の頭の切り替え、いわゆるトップダウンが非常に重要です。得てして経営層の世代は、社風を変えていくことに相当な決心が必要ですが、教育制度を若手の成長に有効なシステムか、今一度検証してはいかがでしょうか。
続いて、高齢化にかかる課題は、定年年齢も伸びる傾向で、再雇用の人材を上手に利用している会社もたくさんあり、ある程度対応してきている感じを受けます。若手とは逆に、これまで培った経験や知識をスポットで上手に適用してもらい、長時間労働や体力勝負の現場は避けること、また、若手育成に携わってもらうことが有効かと思います。
当然ながら、労働環境については注意しなければならない点がありますので、若手と同じように動けると思わずに、体力や持久力を考えて、人材と安全衛生管理を強化する必要はあるでしょう。各地の建設現場で事故が起こると、60歳以上の方が被害にあわれているケースを見ますので、気を付けなければと自戒しています。
少しとりとめのない一般論になりましたが、皆さんの職場に適する改善方法を一度お考えいただければと思います。もちろん、正解はないかいもしれませんが、技術者としてバランスよく、また、経営陣の方は先を見据えた立場として、ご一考をと思います。
建設業界の問題とお勧めの新書
若き技術者に、ひとつお勧めの本を紹介します。
『青函トンネルから英仏海峡トンネルへ-地質・気質・文化の壁を越えて』持田豊著(中公新書)という新書本(1994年発行)です。
今年3月に北海道新幹線が開業しましたが、この本は1988年に開通した青函トンネルの工事について、プロジェクトリーダである技術者が引退後にまとめたものです。
ちなみに、地質技術者である持田氏の文章は、地質の専門知識がない私でも、十分に理解でき、単なるドキュメンタリーに留まらずなおかつ技術参考書として読む事ができます。
この中で、昭和30年代から筆者が若手技術者として津軽海峡を訪れ、現場を開拓して、プロジェクトリーダとなって事業を成功させ、のちにドーバー海峡の英仏トンネルに協力する姿が描かれています。そして、それぞれの立場で管理技術者として何を考え、どう動いたかが楽しみながら勉強できます。
また、終盤で英仏(一部アメリカ)技術者の特徴を分析し、いずれも「日本の技術者の方が優れている点が多い」と考察しています。そもそも、地質的には青函トンネルの方が英仏海峡トンネルよりも相当困難であったのですが。
しかし、1970年代から80年代にかけての話なので、当時の英仏技術者の問題は、そのまま21世紀の日本の建設業界の問題になっています。
問題の根源は、技術に係る思考スタイルと、技術伝承における人材問題を挙げています。前者はお国柄という話ですが、後者は高齢化と人口減少が背景にあり、技術伝承の難しさを述べています。若手技術者の成長には、論理と実践のバランスが重要で、大きなプロジェクトが実践で体験できる環境が必要とも言っています。
かなり、ネタバレを含んでしまいましたが、建設技術者にはぜひ読んでほしい本です。特に地質屋さんには、間違いなくお勧めです。
筆者を通じて、日本の技術コンサルタントのあるべき姿が、具体的に見える本です。
6割正解率で技術士となりましょう
今月技術士二次試験がありますので、受験者の方は事前の最終準備に入っていることと思います。
すでに過去問や、国の施策、出題のトレンドを確認されているでしょうし、私も去年まではなるべく正解率を高くすることに集中しておりました。
試験直前なので、なるべくは具体的な情報をアップしたいと思っておりますが、今回は6割正解の心構えについて、書かせていただきます。
まず、技術士の資格自体が、前に書いた通り『世の中の多くの問題を解決する資格であり、けして楽になるための資格ではない』ということを、再認識して欲しいのです。
受験勉強も大変であろうと、各部門に必要な情報を集め、資格を名乗るにふさわしい最低限の知識と経験を付けるべきなのです。
私が建設部門の建設環境に合格した後、建設関係の基本知識が足りないことを認識し、国のガイドラインを勉強し、後から知識を付けることもありましたが、当然の流れ。自分がコンサルティングを行う上で、ないと困る知識や経験がないなら、いくつになっても身に着けるべきです。それは、受験中にはわからないことが多い。
準備が完璧に整ってから受ける資格ではないですし、技術士登録後に仕事で結論を出すための努力が常に付きまといます。
★ところで、多くの資格に要求される『6割の合格ライン』とは何なのか?★
試験制度上、合否を決定する効率的合格ラインが6割程度という話なのですが、技術士について言えば、60点でも満点でも大差ない、のが実情です。なぜなら、資格の合格とはそんなものだからです。(その説明は後で)
かといって、合格ラインを下げすぎると、資格の重みも必要性もなくなるので、そこはきっちり6割のライン引きをするのです。59点は0点と同じです。制度上。
6割と満点が同じという意味は、合格後こそ問題だからであって、試験がよくできる人間を求めているわけではないからです。
論文や面接で、合格後の豊富を聞かれるのもそのためです。
資格を持ってからどれだけ世間と渡り合っていくか?努力して人脈を作れるか?
社会に貢献するのか?という話なので、本当の合否は、受験後に「よし!」と思って気合いが入るのか、「あーおわった、、」と思うのかが実は重要なのです。
つまり、試験で満点を目指しても、合格後に何も努力をしない人は技術士として失格なのです。6割を目指し、合格後の大きな抱負をもって試験に挑みましょう!
総合技術監理は技術士とは別の試験
私は、総監部門に合格することに想定外に苦労しました。総監以外の3部門は、いずれも労せず合格し、総監合格だけ7年もかかったのです。途中でやめなかったのが不思議なくらいです。 この原因は何だったのかを、今日紹介します。
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答えから先に言いますと、総監部門を『技術士の他の部門の延長』だと思っていたことです。分かりやすく言えば、別の資格試験だったのです。
総監部門は、技術士の一部門ながら、他の技術士とは勉強方法も考え方も変えなけらばいけない受験科目なのです。あえて誤解を恐れずに、大げさに言っていますが。
受験者は頭を切り替える必要がある、と私は思っております。
話は変わりますが、技術者のイメージを「文字で表す」ということが世間にはあるそうで、技術が一つの分野を深堀りするイメージは「I」という文字で表わされます。これは、垂直方向に深く突き進むと意味で、追随を許さない独走の技術開拓です。
一方、広く浅く知識を得る形を「一」で示し、分野にこだわらずバランスよく柔軟な対応ができるイメージです。人間には、実際この2つのタイプの人がいますね。
技術士の総監以外の部門は「I」で示すイメージの深掘りの資格と考えられ、総監部門は「一」で示すバランス重視の広い分野の資格というわけです。
技術士試験は、通常の技術部門の合格後に総監部門を受験するという「シバリ」がありますので、順番からいえば「I」の上に「一」を乗せるという作業になります。
この結果出来上がるのが「T」という文字です。更に、深掘りの得意部門が2つとなれば「π」という文字が出来上がります。
技術者の理想の文字は「π」と言われ、それは深い技術を複数もち、バランスの良い判断ができて、倒れにくい、といったイメージなのです。
大分横道にそれてしまいました。
総監のイメージは「一」の文字なのです。「I」で示す技術的難題の解決や、隘路の解消を得意気に論述してはいけないのです。2つ以上の同時多発的に発生する「トレードオフ」(昨日テーマにしました)を、無難に解決することが重要です。
二律背反事象を見事に解決することを、時代劇に例えて「大岡裁き」なんて言いますが、誰もそんなファインプレイを求めていません。
そこそこ現実的にクリアするという、調子のよさ、バランスの良さが大事なのです。
受験者の皆さま、切り替えはできましたでしょうか。あと20日です。
トレードオフは当たり前のこと
技術士総合技術監理のテーマとして、トレードオフ(二律背反事象)の解決がよく示されます。
トレードオフとか二律背反、と言うとかしこまった感じになりますが、簡単に言えば「彼方(あちら)立てれば此方(こちら)が立たぬ」という話です。
みなさん、仕事をする上で唯一のミッションに向かって、他のことは考えずに思う存分注力する経験など、おありでしょうか?
中には、発光ダイオードの中村教授のように、永年にわたり孤高の研究を突き進むという職場環境に恵まれる人も、稀にはいらっしゃるかもしれません。しかし、大多数は時間と予算の制限の中(つまりは経済的管理下)、あるいは資源や情報に係る境界条件を与えられ、目標達成への努力を行うものでしょう。民間企業ならば尚更です。
◎現代社会では、トレードオフのない事業活動など、滅多にないのです◎
特に現代は、環境保全を無視した開発などありえない時代になりました。すなわち、経済活動と環境保全活動は、切っても切れない関係にあるのです。国の発展コンセプトである「持続可能な開発や発展」とは、「経済と環境のトレードオフを解消すること」に他なりません。大規模事業には環境アセスメントが法令化されていますし、二酸化炭素排出量や燃費の改善など、日常茶飯事にトレードオフのミッションが出現します。
ですから、身の回りで起きているトレードオフ事例を探すまでもなく、環境と経済活動のバランスを保つこととは、いくらでもある筈です。
遠回りをしましたが、総合技術管理の試験でトレードオフ事例や上手くいかなかった経験を求められたら、まずは社会環境管理と経済性管理のトレードオフを想定し、自分の技術的ミッションと環境保全のことを用意すればよいのです。
次いで、社会環境と情報管理の両立や、安全性と経済性の両立、人的資源と経済性の両立など、バランスをとることが普通のミッションを想定してみましょう。
あらためて探さなくとも、自分の経験の中でたくさん事例が出てくると思います。
しかし、技術士総監のテーマは、それに気付くことが重要であるのだと思います。管理的な立場においては、総合的かつ俯瞰的な立場で、先を見越して問題点に手を打っていくために、ケーススタディを積むことが必要なんだと思います。
今一度、皆さんの経験を整理してみてはいかがでしょうか?